社会・経済システム学会 全国大会


リベラルアーツと社会経済システム論:

−知の海図を与え世界を語る基礎的用語としてのシステム概念の検討−

目次

社会・経済システム学会 第27回大会・大会テーマ

「リベラルアーツと社会経済システム論:−知の海図を与え世界を語る基礎的用語としてのシステム概念の検討−」

大会テーマ趣旨説明文

 今日、変動する社会の中で構成することを要求される知はどのようなものなのであろうか。複雑化する世界は、地球規模で社会、組織、地域、家族、個の様々なレベルでその機能と意味のシステムを再構築することを要請されている。それに対して,我々の持つ知のストックは断片化し、それらをつなぎ合わせる知の構図は薄もやに隠れてその輪郭を捉えることは難しい。

 それどころか、異なった知や異なった理解をつなぎ合わせるための理念型や方法論を構築できないまま,社会を説明する様々な知の対話不能性、共約不可能性に我々は直面している。社会科学の内部、社会科学と人文科学、社会科学と自然科学・工学等様々な領域に様々なレベルでの共約不可能性が見いだせる。これらを認識し克服する努力なしに、文理融合や社会技術を語ることは欺瞞でしかない。

 これは半世紀前に、一般システム協会が構想した知の共通構造を見いだす挫折した試みの状況よりも、更に深刻な状況に我々は直面していることを意味している。システム概念そのものが、システム境界など基本的な概念のレベルで理念型として混乱し、またその再構築や共有にも失敗している。

 他方で、我々は、20世紀型の国民国家からも,また埋め込まれた生活世界や文化からも独立して、この世界を自律した自由なこととして捉え直し、読み解くための知の枠組みを要請されている。それには知の海図を描くためのメタ的な知のあり方と、社会や経済を読み解くための基本的な語彙としての理念型に関する諸技術を身につけることを必要とする。

 このような知の構築の理念は決して新しいものではない。古典的なリベラルアーツを構成する自由七科(文法 /レトリック /論理学 /数学 /幾何 /音楽 /天文学)は、市民が身に付けるべき「自由人の諸技術」としてヨーロッパで形成された。それは米国に於けるリベラルアーツカレッジに引き継がれ、戦後の日本の大学に於ける一般教育へと引き継がれる。だがそこでは、自らの力で、社会の諸問題を理解し、知の海図を描くための技術ではなく、単なる専門に対する基礎教育課程としての位置づけが行われてきた。

 今我々が再構築すべきは知の構図を描く方法論であり、人工物としての社会・経済システムの再構築のためのデザイン論そのものの再構築である。その海図を描くための道具がシステムの理念型となる。そのためには、現在生じている、システム概念の理念型としての混乱に終止符を打ち、すでに形の見えつつある内部モデル、構造変動、自己組織化、目的、学習、参加的アプローチ、解釈的方法、システム境界、目的、コミュニケーション、等々様々な新旧の理念型を整理し、互いに共約可能な用語でその知の体系を構築する必要がある。これらを通じて、新時代の社会システム科学を醸成し、生活世界まで含めてデザインサイエンスとして捉え直すことは、現代に於ける「自由人の諸技術」としての新たなリベラルアーツの創出に他ならない。

 本大会では、これら新たな知の体系の創出に関連し、システムの概念、理論、応用,更に教育に関する様々なレベルでの理論や方法論、実践、応用からの提言と討議を歓迎する。



Copyright, 1999-2008, The Japan Association for Social and Economic Systems Studies